ゴシックがメイリオになるまで

2007年2月28日に日立キャピタル株式会社にて行われた研修会「ゴシック体がメイリオになるまで」の講演原稿を、一部編集したものです。

レタリングとの出会い

今日では“レタリング”と言う言葉を殆ど耳にせず、“タイプ”とか“フォント”が「文字」全般を指すようになってきています。

私の「文字」との出会いはレタリングの通信教育(日美)で、中学3年頃と記憶しています。その後通信学部から東京デザインスクールへ進むことになり、そこで小塚昌彦氏からレタリングの授業を受けました。その後、氏の力添えを頂いた事で長く文字と関わり現在に至っております。

当時は筆で直線を引く技術(溝引き)で、デッサンした文字のアウトラインを描き、内を筆で塗りつぶして作成していました。小筆を使い13mm角に名前を明朝体やゴシック体で書いたのを思い出します。

その後ロットリングに代わり直定規と曲線定規を使い同様に描いていました。学校卒業後レタリングの講師をしながら文字との継続性を保つ為「写研タイプフェイスコンテスト」などに出品、2度の入選をしました。

ビックマップフォント

平成元年、文字関連の会社である(株)文字図形センターに入社。当初はFC-1というビットマップ専用機で48dotの欧文を毎日黙々と作成していました。その時の明朝体、ゴシック体、行書体、教科書体と多くの書体に接し、ビットマップ化の作業をすることで非常に勉強になりました。

次にサイズの小さいビットマップを手がけていく事になりました。画数の多い漢字は、サイズによって線画を間引き、最もいい形にするためにはどうすればいいかという判断をしていきます。その行程作業は楽しくもあり、最も困難だったとも言えます。

原字がゆるいカーブの場合、ビットマップ化する時に曲線どおり点をずらすか、または直線にするかは常に迷う点です。そこをどう判断するかが文字の印象を決める全てになるわけですから当然迷う時間も長くなるという訳です。

それらの経験が結果として、クリアタイプによりビットマップ化を前提とした“メイリオ”のデザインコンセプトのひとつ、「どのようなサイズでも同じ字体での出力」に生かされたと自負しています。

マッキントッシュとフォントグラファー

まだMacについて殆ど知識がない頃、書体を作りたいという意識が生まれました。そしてひとつの書体として初めて仕上がったのが“れいしっく(隷書風)”と“ブーケ(写研のフォン欄に似)”です。その後、『汎用性のある基本書体の作成』をテーマを持ち、何にどのような書体がいいのかなど検討しゴシック体にすることにしました。何故ゴシック体だったのかと言えば、タテ組では感じない文字の並びの「ふらつき」が他では気になったからです。どのようなデザインにすればヨコ組がストレス無く読めるのか、その問題解決に繋がったのがずばりMacだったのです。

Macは欧文用でヨコ組を作成するのに適した機能を持っており、その欧文用のガイドラインを生かして作業を開始しました。

フォントグラファー3.6を使用し、その後4.1にバージョンアップして、1水は3回、2水は2回の修正を重ねる事でようやくまとめることができました。仮名は単語を組んだり漢字と組み合わせ、イメージの同一性を保つように考慮しました。横への流れを意識して、全体の構造とエレメントに水平・垂直の意識を取り入れました。通常正方形の中にデザインされる活字をそのまま横に組むと、横への目の動きに違和感やストレスを感じます。そこで、こころもち平体にすることを試みましたらその問題点を解決出来る事に気付き、横に組んだ時に流れが生まれる効果をも得たのです。

このようなコンセプトで作成したゴシック体がマイクとソフト社から派遣されたタイプディレクターの河野英一氏の目に留まり、そこから“メイリオ”へと大きく発展していくことになりました。

メイリオへ

日本語は本来、長い歴史からタテ組に適した構造であり、中心線を基準にデザインすると自然とタテ組書体となるのです。それをタテ、ヨコ両面に適するようにするにはヨコ組を微調整する必要が生じます。これは一部を除きヨコ組の圧倒的な使用頻度からして重要と考えます。

事実、マイクロソフト社にも、「ヨコ組が読みやすく欧文との混植に適している」とのコンセプトがあります。その条件を満たすべく、欧文(Verdana)作者マシュー・カーター氏も開発チームの欧文担当者として和文調和に取り組み、修正を重ねて欧文フォントは完成されました。

完成フォントの判読性についてマイクロソフト社の視覚に関する専門家が、表示テスト、リサーチに多くの時間を費やし、結果、そこで『他の多くのフォントに比べ優れている」と実証されました。

フォントの役割とは

前述の様に日本語の組版はヨコ組が著しく増えています。表示やビジネスの世界でほぼ100%がヨコ組と言われている程です。昔に比べ欧文の単語やメールアドレスなどが入り込むと読みやすいヨコ組が益々重要になってきます。

私が文字をデザインする目的のひとつに、「配慮」という思い入れがあります。文字が主張することで見た者に強烈な印象に残すという役割もあるならば、文字を意識せずに読み手がさらりと快く読み進む事ができる「主張し過ぎない役割」も必要だと考えるからです。文章全体を読んだ時にすっきりとした気分を感じさせることもフォントの役割だと考えています。

まとめ

私のゴシック体が“メイリオ”へと発展していく過程で、表示を目的としたフォントは印刷を目的としたものとは違い出力時(オンスクーン)でのベストを目指し、それに最も適した文字をデザインする事だと学びました。しかしメイリオは印刷(タテ組・ヨコ組)にも十分対応できる品質さえも保つ事ができました。

多くの人に“メイリオ”を実際に使って頂き、新しい日本語組版のトレンドを実感して欲しいと切に望む次第であります。

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